<ことば>重要広範議案
国会に提出される法案のうち、本会議や委員会で首相が答弁する最重要法案。2000年の通常国会から始まった仕組みで、衆院議院運営委員会の理事会で決まる。本会議で趣旨説明・質疑を行う他、委員会で20時間以上の審議を行うのが慣例だ。通常国会だと4件を目安に指定される。
与野党駆け引き 審議めど立たず
農水省所管の法案が重要広範議案に指定されるのは、与野党の合意により衆院で重要広範議案の運用が始まった2000年以降で4回目。これまでの法案は、他省の法案と一括で指定された05年を除き、14年の「日本型直接支払い」など農政改革関連法案は衆参で計60時間超、15年の農協法改正案は70時間超をかけて審議された。
16年の通常国会で審議入りした環太平洋連携協定(TPP)は秋の臨時国会に継続審議となり、審議時間は両国会で計130時間を超えた。
今回の基本法改正案は、まだ審議入りのめどが立っていない。与党は、与野党が対決する法案ではないとして早期に審議に入りたい考えだが、衆院本会議での趣旨説明を行う順序や日程を巡り、野党との駆け引きが続いている。
政策目標の変遷 価格から所得へ
一般的に、「○○基本法」という名前の法律は、ある分野における国の政策の基本方針を示すものとされる。優越的地位にあり、その分野の他の法律や施策の方向性を決める。
農業分野で初めて作られた「基本法」は、1961年制定の農業基本法だ。農業の生産性向上や農業従事者の所得増大を目標に掲げた。
高度経済成長に伴い、農業と他産業の間で所得や生活水準の格差が広がる中、その是正を目指した。
法案の審議では、衆参の農林水産委員会に池田勇人首相(当時)が出席して答弁した。
転機となったのは貿易自由化だ。93年に決着したガット・ウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)では、米のミニマムアクセス(MA=最低輸入機会)や農産物の関税削減の受け入れを余儀なくされた。一層の自由化が懸念される中、国内外の実態に対応した新たな基本法として99年に制定されたのが、食料・農業・農村基本法だ。
それまでの価格政策から「所得政策」にかじを切り、その後の経営所得安定対策につながった。旧基本法が「農業」に焦点を絞っていたのに対し、「食料」「農村」も対象とした。基本理念には①食料の安定供給の確保②農業の多面的機能の発揮③農業の持続的発展④農村の振興――を掲げた。農業従事者だけでなく、国民全体のための法律に転換された。戦後農政の抜本的改革とされた。
法案は、衆参の農林水産委員会で約80時間審議された。小渕恵三首相(当時)は、「農業者が自信と誇りを持って農業に励み、国民が安全と安心を得て暮らすための条件整備が図られる」と答弁した。
農政の転換点 食料安保を明記
今回の改正では、食料や生産資材の輸入の不安定化や人口減といった情勢の変化を踏まえ、基本理念の「食料の安定供給の確保」を「食料安全保障の確保」に改める。食料価格を巡り持続的な供給に必要な「合理的な費用の考慮」を規定した。新たな理念に「環境と調和のとれた食料システムの確立」も加える。
こうした理念を実現する具体策の在り方を含め、詰めるべき論点は多い。また、農地確保に向けた農地関連法案や、不測時の食料安全保障の体制を整備する法案、人口減に対応するためのスマート農業促進法案など重要な関連法案もある。
61年の旧基本法の制定、99年の現行基本法の制定に続く、農政の転換点となるだけに、農家、国民を巻き込んだ十分な議論が求められる。