短期雇用の軽快さ・外で働く気持ちよさ〝性に合う〟
2023年度産の温州ミカンの収穫に合わせて働きに来た小松拓也さん(32)と三本菅春華さん(35)は、短期の仕事をつなぎ合わせて生活している。
いろんな経験を
長野県出身の小松さんは「いろいろな仕事を経験したい」と機械製造の会社を辞め、短期で働く形を選んだ。旅館の接客などを経験後、一般の求人サイトを介して23年7月に初めて農業現場へ。長野県でハクサイとブロッコリーを収穫し「外で働く方が面白い」と、次の仕事に和歌山県のミカン収穫を選んだ。小松さんは「旅行や大型自動車の免許取得など、小さな夢がたくさんある」と話す。短期雇用は一定期間で区切って働けて収入も見通しやすいため、ライフスタイルに合っているという。
フットワーク軽く
神奈川県出身の三本菅さんは「やるべきことが明確。目の前の作業に集中できるのが良い」と野菜・花き栽培や果樹収穫、梅干し加工場などで働いてきた。農繁期に短期で働く学生をテレビ番組で知り「こういう働き方があるんだ」と関心を持った。生花店に勤めていたが、異動などでやりがいを感じにくくなっていたこともあり、農業に飛び込んだ。今は外での作業が気持ち良く、合っていると感じる。正職員として転職する際のような複雑な手続きが少なく、フットワーク軽く働けるのも良いという。
働き先は、農業専門の求人サイトや、働く中で知り合った友人の紹介で探す。「紹介だと安心感がある」。住環境は必ず応募前に確認し、個室か相部屋か、インターネット環境の有無などを確かめる。次の仕事まで期間が空くときは実家で過ごしている。
2人を雇用したのは、和歌山県湯浅町の3・6ヘクタールでかんきつ類などを栽培する五百崎照平さん(39)。人手を集めるためにも、環境づくりに気を使う。受け入れ住居は倉庫の2階を改装するなどして個室を整備。作業に慣れるには3日~1週間かかるため、丁寧に指導できるよう一人一人の到着日をずらすなど工夫を重ねる。
6割が県外から
管内求人の応募窓口などを担うJAの担当者は「各地を渡り歩く遠方からの働き手が増えてきた」と話す。23年度の応募者を見ると、主力ミカンの収穫直前に当たる10月時点で約6割が北海道や福岡など県外から。前年の1・5倍に大きく伸びた。コロナ禍などを機に価値観が変化し「都会を離れて農業に触れたい人や、定住を見据えて地域の雰囲気を確認しに来る人が増えた」(同)という。一方、地域では受け入れ住居などを各農家が用意するのは「負担が大きい」との声もある。JAでは、効果的な支援の検討を進めている。
農水省は、農繁期が異なる産地間での連携を支援する。共同での人材募集や、採用した働き手の旅費・宿泊費などを対象とした補助事業を22年度から始めた。副業が一般的になるなど働き方が多様化する中で、短期の働き方は「これから広がっていくのではないか」(就農・女性課)とみている。
<取材後記>
農業現場で、さまざまな人が働くようになってきた。副業や1日バイトといった働き方の広がりに加え、インターネットサイトやアプリなど、働く機会を探す手段も増えた。アルバイトのマッチングアプリ運営会社によると、同社アプリの農業分野での利用は急増している。就農を目指すのではないが、農業に関わりたい人たちがいる。
取材中、小松さんと三本菅さんの自然体で働く姿が印象的だった。実や枝の位置を見極めるまなざしは真剣そのものだが、持ち場を離れて五百崎さんと3人で集まると、柔らかい笑顔と笑い声が広がる。
2人とも「外の作業が気持ち良い」と話す。そんなふうに農業と若者の接点が増えれば、農業はもっと社会全体に身近な存在になっていくような気がした。(浦木望帆)